オーディオ用浮動バイアス方式アンプ

平野 拓一

このページでは、私が大学3、4年のときに考案したオーディオ用 浮動バイアス方式アンプを紹介します。 このオーディオアンプは実際に製作し、ゲームをするときに使っていました。 非常に低コストで簡単に製作でき、市販のアンプキットよりも質が高くて 実用的だったのでこのページで紹介することにします。

このアンプは次のような特徴を持ちます。

1.スタンダードなオーディオアンプの欠点

1.1 カップリングコンデンサ

まず、 オペアンプ について説明します。電気系の人は大学の電子回路の授業でオペアンプを習います。 そのときは理想的なオペアンプしか習わないので、まず実際のオペアンプの 動作について説明します。

私がよく使うオペアンプは単電源で動作するタイプのものです。 単電源オペアンプはチップの内部で電源電圧 Vcc を抵抗で分圧したりして 約半分の電圧 Vcc/2 を作り出しています。 そして、オペアンプの+,-の入力端子間の電圧が 0 のときは出力にはこの Vcc/2 の電圧が出ています。入力端子間に音楽情報などの電圧をかけると この Vcc/2 の電圧を中心として出力端子には 0 から Vcc の間の電圧が現れます。

ここで、もしオペアンプの出力端子と GND 間に直接スピーカーをつないだら 電圧に直流成分があるので、スピーカーが片方に引っ張られてしまい、音が出ません。 しかも、抵抗が 8 Ωしかないスピーカーに常に直流電流が流れるので、 スピーカーのコイルが焼ききれる恐れもあります。 そこで、普通は図1のようにアンプとスピーカー(図1では抵抗Rで示す)の間に コンデンサを挿入して直流が流れないようにします。 このコンデンサは交流だけ通す結合用に使われるのでカップリングコンデンサ (交流結合コンデンサ)と呼ばれます。

カップリングコンデンサ

図1: カップリングコンデンサ

●RC high-pass filter

ここでは、カップリングコンデンサを挿入したことによるアンプシステムの性能の劣化を 考察します。 図2 のような RC HPF の特性を評価します。
RC high-pass filter

図2: RC high-pass filter

入力電圧と出力電圧をそれぞれ V1, V2 とすると、それらの関係は次のようになります。

式
そして |A|、つまり伝達関数の大きさは次のようになり、 その周波数特性をグラフに描くと図3 のようになります。
式
周波数特性

図3: C=470μF, R=8 Ωのときの 図2 の RC-HPF の周波数特性

この例のように、カップリングコンデンサに 470μF というかなり大容量のものを 使ったにも関わらず、そのカットオフ周波数は 42Hz となってしまいます。 これでは低音が再現されず、いいアンプとは言えません。 カップリングコンデンサの容量を無限にする(つまりショートする)と問題ないけど、 先程述べたような問題が生じてしまいます。

1.2 電源ノイズ

アンプの電源を入れて無音状態にしておくとブーンという音が聞こえるのに気づくと思います。 これは電源のノイズです。 音として聞こえるし、あまり高くない音だから 50〜60Hz の電源電圧の雑音(ノイズ)が現れていることがわかります。

普通、直流電圧を商用の 100V, 60 Hz の交流から作るときにはダイオード、コンデンサ、 抵抗を使って 10V の直流に直します(整流)が、完全に直流にすることはできず、 リップルといわれる交流成分が残ってしまいます。 そのため、普通は整流したあと、安定化電源などを使います。 安定化電源の種類としては、シリーズレギュレータ、スイッチングレギュレータ などがありますが、前者は性能はいいけどエネルギーを無駄遣いし、 後者は平均的にはいい直流ですが、スイッチングするときにインパルス 波形が出来て雑音を撒き散らしてしまうという欠点があります。

2.浮動バイアス方式

1 章で述べたスタンダードなアンプ回路の欠点を克服するために 私は浮動バイアス方式という回路構成を考えました。

まず、カップリングコンデンサを使うことによって低域で利得が低下してしまう問題 を解決することにします。そもそも、カップリングコンデンサを使わなければいけない 理由は直流成分をカットするためでした。2電源を使えばこの問題は解決するけど、 ここでは大量にあるファミコンなどの AC アダプターを利用して低コスト で作りたいという目的があるので単電源を使うことにします。

すると、無入力時の出力電圧は Vcc/2 なので、もう一つ Vcc/2 の電圧を作って、 そことの間にスピーカーをつなげばいいことになります。

その Vcc/2 の電圧を作る一つの方法としては、同じ値の抵抗を2つ使って Vcc を分圧する 方法があります。でも、これではテブナンの定理により、スピーカーに抵抗を直列に 挿入する形になってしまい、アンプの出力インピーダンスが高くなってしまって 増幅器としての動作をしなくなってしまいます(電力を取り出せない)。

そこで、他の方法としては図4 に示すようにオペアンプの 入力端子間をショートさせておいて、その出力を Vcc/2 にする方法があります。 この方法だとオペアンプの出力インピーダンスは非常に低いので合格です。 もし、オペアンプの特性が完全に同じならば直流成分は全くありません。 (実際には数十ミリボルトあるけど、実用上問題ありません) これで、カップリングコンデンサを使うことによって低域で利得が低下してしまう問題 は解決しました。図4 に示す回路構成を「浮動バイアス方式」と名付けます。 理由は後で述べます。

浮動バイアス方式

図4: 浮動バイアス方式

次に電源ノイズの問題を考えます。 浮動バイアス方式を使うと 2 つのオペアンプの出力に同相・同振幅で電源ノイズ が乗るので、差を取るとキャンセルされます。 スピーカーの両端にかかる電圧は2つのオペアンプの出力電圧の差なので、 電源ノイズはキャンセルされます。 実際に製作したアンプを使って音を聞いてみるとスタンダードなアンプとの差は 明らかでした。無音の状態のときでも電源ノイズは聞こえなく、雑音特性は非常に 高性能でした。 こうして電源ノイズの問題は浮動バイアス方式を使うと自然に解決できました (周波数特性と雑音特性を同時に解決できて一石二鳥です)。

ここで、「浮動バイアス」という名前の意味はバイアス点が電源ノイズによってフワフワ 動いているという意味です。

この回路の唯一の欠点はカップリングコンデンサを取り除いたので音は良くなりましたが、 信頼性は低下しました。つまり、もし2つのオペアンプの特性が同じでなく、オフセット電圧 が大きいときには直流電圧が出力に現れてスピーカーを危険にさらす恐れがあること は否定できません。でも、実用上は問題なく動いています。

3.実際の回路

ここで、浮動バイアスアンプの実用回路を紹介します。今回は家庭用テレビゲーム機の 音声ライン出力を入力としてヘッドフォンで音楽を楽しむ回路を設計してみました。 私の家のテレビはモノラル入力しかないからステレオのアンプを作ればすごく実用的だからです。 図5 に回路図を示します。図5 では 1 チャネルしか書いていないから、2 チャネルのステレオ にしたいときは図5 の右の回路を2つ作ってください。その場合は 2 連ボリュームを買ってください。 図6 に 5532 のピン配置を示します。 この例では 5532 を使ったけど、4558, 4559 などの OP アンプはピンコンパチブルだから IC ソケットを使うと後で他の IC に入れ替えてみて音を聞き比べることもできます。 また、オーディオ専用に設計された LM386 のような OP アンプを使うと 小型でスピーカーを直接ドライブするアンプを作ることもできます。 オペアンプについてはここを参照してください。

実際の回路

図5: 実際の回路

図5の写真

NJM5532 のピン配置

図6: NJM5532 のピン配置

3.1 設計の指針

4.製作上の注意

実際に高級なスピーカーで音を出す前に、必ず安いスピーカーでテストしてください。 また、スピーカーを実際につないでみる前にテスターで直流電圧が出てないことを 確認してください。(数十ミリボルト以下なら合格) 動作させる前に回路の直流電位をチェックすることは重要です。 最後に、このアンプによってスピーカーを壊てしまっても私は責任を取りません。
関連リンク
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