チンダル現象とミー散乱

2006/1/29 平野拓一(東京工業大学)


1. はじめに

雲や霧はなぜ白いのか?チンダル現象(Tyndall phenomenon)ミー散乱(Mie scattering)について説明する。またレイリー散乱のみならず、ミー散乱でも偏光が起きることを確認し、多重散乱が起きると偏光が弱まることも確認する。


2. チンダル現象とミー散乱

2.1 準備(セットアップ)

説明
写真
準備

1. He-Neガスレーザーは出力が直線偏光なので、偏光板と1/4波長板で円偏光を作る。この実験では円偏光である必要はないが、後で直線偏光を確認するために直線偏光でない一般の入射光を用いたいからである。

2. コップに水を入れ、ほんの少しだけミルクを混ぜる。これぐらいの水の量だとミルクを2〜3滴たらしただけでも濃くなりすぎるので、ほとんどこぼしてまた水を足して薄めるとよい。白色光を当てると白く見えるということは、散乱の波長依存性がないのでレイリー散乱(波長に比して微小な粒子による散乱)ではなく、また見る角度によらずキラリと光る場所もないので幾何光学散乱(波長に比して大きなな粒子による散乱)でもなく、ミー散乱(波長のオーダーの粒子による散乱)であることがわかる。

3. コップに円偏光を当てる。

2.2 チンダル現象の観察

説明
写真
チンダル現象

コロイド溶液など、比較的大きな粒子が溶けた溶液にレーザー光線を当てると溶液中の粒子が光を散乱(ミー散乱)し、一筋のレーザー光線を見ることが出来る。水分子は小さすぎるので、この程度の光強度では水を入れたコップは透明に見え、レーザー光線は見えない。

ミー散乱の偏光特性

レイリー散乱は偏光特性があり、青空も偏光している(空の偏光特性の実験)が、ミー散乱でも散乱粒子が電界の方向に電荷が分極する等方性(旋光性や異方性でない)のときは偏光する。この理由はダイポールアンテナの指向性を考えるとわかりやすい。次のように偏光板を縦と横にして真横からレーザー光線を見ると明るく見えるときがあり、偏光板を90°回転すると暗くなる。つまり、入射光は円偏光なのに直線偏光が観測されるのである。この理由はたとえ粒子が波長程度の大きさになっても粒子の散乱指向性を考えると空の偏光特性の実験で説明した理由と同じであることがわかる。

↓ 偏光板を90°回転

この実験のWMVムービー

2.3 多重散乱の観察

説明
写真
多重散乱

ミルクをより多く混ぜて濃いコロイド溶液を作る。そして2.2のチンダル現象の実験と同様にレーザー光線を当てると写真のようにレーザー光線の通過道だけでなく、全体が明るく光る。これは粒子の密度が高いので多重散乱していることを意味する。

多重散乱による偏光解消の実験

2.2ではミー散乱でも偏光が起きることを説明したが、散乱体密度が高く多重散乱が起きる場合には偏光が解消してしまう。2.2と同様に偏光板を縦、横にして真横の散乱光の偏光状態を調べてみよう。すると、どちらにしても溶液は明るく光って見える。つまり、直線偏光にはなっていないのが確認できる。これは多重散乱によって偏光が解消された結果である。

雲もこれと同様の現象が起きている。雲が白く見えることから散乱光の周波数依存性がなくレイリー散乱でないことがわかる。また見る角度によってキラリと光るところがないことから幾何光学散乱でないこともわかり、ミー散乱と判断することができる。そして、太陽の90°横の青空を偏光板で観察する(空の偏光特性の実験)と偏光していることがわかるが、雲は色がほとんど変わらず偏光していないことから多重散乱が起きていて粒子密度が高いことがわかるのである。

↓ 偏光板を90°回転

この実験のWMVムービー

[多重散乱による偏光解消の定性的説明]

多重散乱によって偏光解消することの定性的説明をする。多重散乱が起きる濃い媒質では、たとえ直線偏光を入射させても散乱光は偏光しない。このことを定性的に説明するために下の図を用いる。まず、散乱体が密に配置された媒質に入射光(入射波)を当てると、散乱体に当たった電磁波は散乱体中の電子を分極させ再放射する。入射光成分による再放射を1次散乱と呼ぶことにすると、2次散乱は1次散乱光(電磁界)による再放射である。散乱光は通常は入射光よりも弱く、また散乱体が希薄なときは1次散乱光が隣の散乱体に当たるまでに入射光に比べて十分減衰するので2次散乱は無視でき、1次散乱のみ考慮すれば十分である。しかし散乱体が密なときには1次散乱のすぐ近くで、強い1次散乱光によってさらに再放射される2次散乱は無視できなくなる。下の図は1次散乱波(電界を描いている)により、2次散乱が起きる様子を描いている。この図から、直線偏光を入射してもその成分と直交する成分が現れる理由がわかる。下の図で(1)は1次散乱、(2)-(4)はそこにある散乱体による2次散乱の双極子の分極方向を描いている。(2),(3),(4)と順に2次散乱強度は小さくなる。つまり、散乱体が密になるほど2次散乱は無視できなくなるし、さらに、散乱体が密なときには(2)による再放射が(3)に影響を与える3次散乱・・・さらなる高次散乱も無視できなくなる。以上より、直線偏光を入射しても直線偏光の散乱光が観測される訳ではない理由が定性的にわかる。


参考文献

[1] ファインマン・レイトン・サンズ:“ファインマン物理学 II 光 熱 波動”、岩波書店、2002.
[2] 徳丸仁:“光と電波 −電磁波に学ぶ自然との対話−”、森北出版、2000.


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